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「プロボノ」で社会課題に挑み、自らのスキルも広げていく │ Webディレクター 前田優介さん

更新日:4月27日


みなさんは、「プロボノ」という言葉を知っていますか?


プロボノとは、仕事で培った専門スキルを活かして、社会課題の解決に無償で取り組む社会貢献活動のことです。


現在の社会には、子どもの貧困、食品ロス、地域の過疎化など、解決すべきさまざまな課題があります。


そうした課題の解決に向けて、多くのNPO団体が活動していますが、IT、広報、戦略立案などの専門スキルを持つ人材が慢性的に不足しているのが現実です。


そこで注目されているのが、プロボノとして活動する人たちです。


「プロボノ」は、ラテン語の pro bono publico(公共善のために) を語源とする言葉で、社会的・公共的な目的のために、自分の専門知識やスキルを活かして活動します。


一般的なボランティアが、誰でも取り組みやすい作業を担うことが多いのに対し、プロボノは専門性を活かして課題解決を支える活動である点が大きな特徴です。



プロボノについてもっと詳しく


プロボノとは、NPOを支える「プロの助っ人」です。


「自分の専門スキルを活かして、社会をより良くする活動に貢献したい」 そんな思いを持つ人が、プロボノとして活動します。


たとえば、

「SNSでもっと認知を広げたい」

「寄付を募るための発信を強化したい」

といった課題を抱えるNPOがいます。


そのNPOの活動理念に共感したプロボノが、それぞれの専門スキルを活かして課題解決を支えていくのです。


プロボノのメリットは、社会貢献に直接関われることです。


本業だけでは得られない経験や人とのつながりが生まれ、結果として自身の市場価値を高めることにもつながります


一方で、デメリットは金銭的な報酬が発生しない無償活動であることです。


そのため、本業とプロボノ活動を両立するためのバランス管理が欠かせません。


社会貢献への思いを持ち続けながら、責任を持ってやり切る自己管理力が求められます。




今回お話を伺ったのは、Web制作のプロボノ活動をする前田 優介(まえだ ゆうすけ)さん。


前田さんは、本業でホームページ制作や広告運用をおこなうWebディレクターの仕事をする一方、所属するNPO法人でもスキルを生かし、WebデザインやGoogleアドグランツの運用など、専門スキルを提供しています。


自動車整備、バイク便、飛び込み営業と、転職を繰り返す中でWeb制作にたどり着き、NPO法人「日本もったいない食品センター」のホームページを作ることになった前田さん。


このホームページ制作がきっかけで、前田さんはプロボノとして活動するようになります。


なぜプロボノ活動をはじめたのか、何がプロボノを続ける原動力になっているのか、前田さんにお話しを伺いました。



「信用してくれた人をがっかりさせたくない」独立までのキャリア


目を合わせてもらえなかったバイク便時代


今から20年前、前田さんは、自動車メーカーのディーラーで自動車整備士として働き始めました。


しかし、居場所を見つけられないまま、退職。


もともとバイクが好きだった前田さんは、ふと見つけたバイク便の求人に飛びつきました。


バイク便は、企業が急ぎで発送したいものを運ぶ仕事です。


広告代理店などに配達物を受け取りに行くと「これ」と書類を差し出され、すぐにお届け先に向かいます。


ピックアップ時も引き渡し時も目も合わせてもらえない日々だったと言います。


「給料は良かったんですけど、心はすり減る一方で。人として向き合ってもらえる仕事をしたいと思いました」


求人誌をめくり、たまたま目に留まったのがホームページ制作会社の営業でした。



「ホームページ制作がしたい」副業から独立へ


入社したホームページ制作会社は、飛び込み営業スタイル。


会社のマニュアル通り「〇〇っていう検索キーワードで一位になれば一等地に出店したようなものですよ。ぜひうちで」という謳い文句で、1件200〜300万円でウェブサイト制作の契約を取っていました。


その会社では「営業は夢を見せるのが仕事。制作は夢から現実にしていくのが仕事」という方針で、契約後にお客様とは接点を持たないようになっていたといいます。


しかし、


「『こんなふうにできる』って聞いてたんだけど」

「営業のときに言われた話と、全然違うって言っている」


契約してくれたお客様と、制作担当の同僚から、苦情が寄せられているという話を耳にします。


自分を信用して契約してくれた人が怒っているという事実を知るたび、前田さんの中に罪悪感が膨らんでいきました。



「もしかして俺、いけないことやってるんじゃないかって。自分なりに売れるホームページってどういうものかを本で勉強し始めたんです。誠実に売るにはどうしたらいいかって」



ホームページ制作の勉強する過程で、セミナーに通い始めた前田さんは「ホームページは顧客の想いを再現するツール」と話していた講師と出会います。


「雇ってくれませんか」と直談判すると快く受け入れてくれて転職でき、ホームページ制作の仕事を始めました。


ホームページ制作について前田さんは多くのことを学び、ウェブサイトから「反響があったよ!」とお客様から御礼を言われたとき、「つくる喜び」に初めて触れることができたと言います。


そんな会社とも数年後には退職となり、再就職先では、メディア制作会社の営業や情報システムを担当で、ホームページ制作からは離れてしまったといいます。


しかし、心のどこかでホームページ制作を仕事にしつづけたいという想いがありました。


前田さんは副業として、ホームページ制作をスタートし、軌道に乗り始めると会社を退職。2015年に独立しました。



「作って終わり」にしない前田さんの提案スタイル


独立当初、前田さんは知り合い経由の下請け仕事から、ホームページ制作をスタートしました。


しかし、納得できる金額で受注が出来ないのが悩みでした。


「もっと高い金額で仕事を取っていかないといけない」と思っていた前田さんは、直接クライアントを獲得する仕事獲得に切り替えました。


最初のうちは...と、ホームページ制作を安価な金額で受け始めますが、安く作るだけでは意味がありません。


前田さんは独自の提案スタイルを確立します。


「総予算が100万円あるなら、制作費を60万円で抑えて、40万円でお問い合わせが取れるか検証しながら改善していきましょう」


サイトを作って終わりではなく、運用までやる事業スタイルで提案しました。


『「はじめまして」からお話を聞いて一・二か月ちょっとコミュニケーションを取ったくらいでお客さまのことを全部理解できるわけないんですよね。一撃で集客100点満点のサイトを作成するのはほぼ不可能なんです。だから、作ったサイトをなるべく早く多くの人に見てもらって、出た結果を元に地道に改善を重ねていくのが合理的だと思っています』


顧客と一緒に考えて進めていくスタイルを取った前田さん。


かつて働いていたホームページ制作会社の飛び込み営業をしていた頃の、苦い記憶が残っていたといいます。


「営業から言われた話と、全然違うって言っている」と制作の同僚から言われていた当時を振り返って、言いました。



「ホームページ制作って、作って終わりにもできるんですよ。でもそれだと、結局また信用してくれた人をがっかりさせることになる。それだけは嫌だったんです」



広告運用はGoogleの認定資格を取得するところから独学で始めました。


検索広告、SNS広告、チラシ、看板。クライアントの業種に合わせて最適な集客手段を提案し、スキルがどんどん広がっていきました。



プロボノを続ける秘訣は「チャレンジ」と「本業への還元」


「自分がちっちゃい人間に思えた」体験談


ホームページ制作をする前田さんに、プロボノを始める転機が訪れます。


前職からお世話になっていた社長がNPO法人「日本もったいない食品センター」を始めるということで、前田さんはホームページ制作を請け負いました。


NPO法人「日本もったいない食品センター」は、賞味期限が近い食品を買い取り、生活困窮者に届ける活動を行う団体です。


前田さんは当初、その事業内容にあまり関心はなく「なんでこんな大変そうなことをやっているんだろう」と思っていたそうです。


しかし、代表理事の高津 博司(こうず ひろし)さんと話すうちに、前田さんの意識が変わっていきます。


生活困窮者支援の現場は、時に罵声を浴びることもあります。


そのような中でも、高津さんは「できるだけ支援を希望する人の希望に沿えるようにする」と向き合い続けていました。


「本来の利用者ではない方がいても、支援を希望する人に対して全ての人に、損得勘定なしに誠実に関わっている。それを見たとき、自分がすごいちっちゃい人間に思えたんですよね」


「高津さんの力になりたい」と、前田さんは、NPO法人「日本もったいない食品センター」のお手伝い感覚でプロボノ活動をはじめました。



広告データが社会課題の「地図」になった


前田さんがまず手掛けたのは、Google Ad Grants(以下、Googleアドグランツ)でした。


NPO法人が月額最大1万ドル分のGoogle広告を無償で利用できる制度です。


「予算がないなら、NPO向けの助成制度を探せばいい。調べたらGoogleが広告枠を無償提供するサービスがあったんです。これを使ってみませんかって提案したのが今思えばプロボノ活動の始まりです」と前田さんは笑顔で当時を振り返りました。



Googleアドグランツの検証を繰り返すと、それまで食品の買取依頼が月一件程度だったのが週に一件、三日に一件。ついには毎日一件来るように。驚くように問い合わせが増えていったと言います。


取材の依頼もいただくようになり、夕方のワイドショーや朝のニュース番組で取り上げられ、日本もったいない食品センターが運営するお店「ecoeat」は大いに賑わいました。


講演の依頼も増え、外務省主催のイベントやFAOからの依頼など、Googleアドグランツから認知拡大し、NPOへの依頼はどんどん増え、事業は拡大していきました。


また、食料支援の依頼も全国から届きます。


依頼者の住所、年齢などデータとして蓄積していくと、地域ごとの偏りが見えてきました。


ある地域に依頼が集中していることがわかると、データをもとに、地域に特化した広告を出すことが可能になります。


NPO法人「日本もったいない食品センター」は、店舗も持っているので、広告データは、出店判断にも活用します。


地域の自治体に連携の提案もします。自治体と連携する理由は、支援の届く範囲を広げるためです。


実は、インターネットで自ら検索して食料支援を申し込む人は、困窮者のごく一部にすぎません。


多くの人は、まず市役所の生活支援課や社会福祉協議会の窓口に相談に行きます。自治体と連携できれば、窓口に来た人たちにも食料を届けられるようになります。


「利用者は色々な方がいて、活動を続けていく苦労もあります。けれどNPO法人『日本もったいない食品センター』は生活困窮者を支えています。だからこそ私も支えていきたいと思い、関わり続けてるんです」と前田さんは笑って言いました。




押し付けがましくない「相互扶助」が理想


プロボノは無償の活動です。プロボノをする原動力は一体何なのでしょうか。



「この人のやってることの力になりたいっていう気持ちと、自分のスキルになるっていう気持ちが、同じ高さで存在していること。どっちかだけだと続かないと思います」


そう話す前田さんにとって、NPO法人「日本もったいない食品センター」で初めて挑戦したGoogleアドグランツ運用は、自分のスキルの幅を広げました。


再現性のあるノウハウが蓄積され、得た知識と経験は、別のNPO法人に有償で提供しています。


一方で「すでにできることをそのまま提供するだけのプロボノ活動は本業の圧迫になりかねない」と前田さんは教えてくれました。


「プロボノは単なるプロスキルの無償提供ではなくて、チャレンジの場であるべきだと思うんです。誰も積み重ねてきた技術を安売りしたくないじゃないですか。だけど、積み重ねてきたスキルを使ってあまりやったことが無いこと、それに挑戦できる形態ならプロボノをやりたい人は増えるんじゃないかなと思っています」



誰が支援し、誰が支援されたか分からない「相互扶助」

Askıda Ekmek(アスクダ・エキメッキ)のイメージ
Askıda Ekmek(アスクダ・エキメッキ)のイメージ

「寄付文化ってあんまり好きじゃないんです。この人から寄付してもらいましたって公表しないといけなかったりする。それって日本人の気質に合ってないんじゃないかと思って」と前田さんは語ります。



前田さんがプロボノ活動をする中で、理想とする「相互扶助」の考え方を教えてくれました。


たとえば、トルコのAskıda Ekmek(アスクダ・エキメッキ)というパン屋をベースにしたチャリティの慣習があるという話。


パンを1つ買った人が1つ余分に、2つ分の代金を支払い、パンをひとつ「誰かのために」置いていく。困っている人はそれを受け取る。誰が支援し、誰が支援されたかがわからない仕組みです。



「アメリカにも似た例があるらしくて。ピザを1ドルで売る店で、2ドル払う人がいる。余分の1ドルは付箋に換えられて店頭のボードに貼られる。困ってる人がその付箋を取って支払いに使う。誰が助けた、誰が助けられたっていうのが見えない世界なんです」と前田さんはにこやかに話してくれました。



社会貢献は、自己犠牲でもなければ、見返りを求める行為でもない。


支える側も支えられる側も、自然体でいられる仕組みの中でこそ持続すると、前田さんはプロボノ活動を続けて感じています。



すべては「子どもたちのより良い未来」のために


前田さんは「プロボノ活動を通じて、自分の夢もできた」と話します。


「1個10円のたこ焼き屋をやりたいんです。子どもの頃、100円握りしめてたこ焼き屋に行ってたんですよ。たこ焼き7個70円と冷やしあめ1個30円を買っていました。子どもが1人で、お金を使って欲しいものを買う楽しい経験ができたのが、今でも忘れられません」


たこ焼き屋の裏にはネットを張って、子供たちにドローンを飛ばさせたいといいます。


ゴーグルをつけて鳥の目線で世界を見る体験は「物事を俯瞰する」という気づきを与えてくれるからです。


前田さんに夢の原動力はどこから来るのかと聞くと、少し考えてからこう答えてくれました。



「子どもたちに、良い未来を過ごしてもらいたい。子どもたちが安心して集まれる場所をつくる。子どもの視野を広げる体験を届ける。エネルギー不足を解決できるよう、自給できる仕組みをつくる。すべては子どもたちへのより良い未来のためですね」



まずは「いいな」と思うNPO法人の門を叩くことから



前田さんは最後に、プロボノに関心がある人への道筋を語ってくれました。


「興味関心のあるNPO団体を見つけて『自分ができることを探したい』と門を叩くのが、プロボノの入口ですね。誰かのために頑張れる人はプロボノ活動に向いています。たとえば尊敬できる上司の下でこそ力を発揮するタイプや、利他的に動ける人です」


実務でやったことはないけど、挑戦してみたい案件を見つけられたら、スキルは勝手に広がっていき、プロボノとして活動できると言います。


プロボノとは、特別な人だけがやることではありません。


目の前の「いいな」と思う人や物事に、自分の手を差し出すこと。


小さな一歩が、自分の人生を思いがけない方向へ動かしていく──前田さんのキャリアが、それを証明しています。

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