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インボイス制度は「登録する・しない」の話ではない

更新日:6 日前

―信頼されるフリーランスが大切にしている取引の透明性とは―




はじめに


2023年10月に始まったインボイス制度。


インボイス制度が始まった頃、相談を受けるたびに感じていたことがあります。


「結局、登録した方がいいんですか?」

「免税事業者は不利なんですよね?」

「企業はインボイスがないと仕事を切るんですか?」


こうした質問の多くは、「損か得か」という視点からのものでした。

もちろん、それも大切な判断材料です。


しかし、実務に携わる中で私が感じてきたのは、インボイス制度は単なる税金の制度ではなく、「取引の透明性」を高めるための制度だということです。




どうして企業はインボイスを気にするの?


国税庁では、インボイス制度について「事業者が消費税を正確に納めるために必要な制度」と説明しています。


企業がインボイス登録の有無を気にするのは、フリーランスを排除したいからではありません。その理由は、「仕入税額控除」が使えるかどうかに関わるからです。


たとえば


①フリーランスのwebデザイナーが元請けのA社にホームページの作成依頼をされていたとします。

フリーランス:A社に納品 → 請求書10,000円+消費税1,000円

A社:フリーランスに10,000円+消費税1,000円を支払う



②元請A社には発注元のお客さんがいる(仮にB社としましょう)

元請A社:発注者B社に納品 → 請求書30,000円+消費税3,000円

発注者B社:元請A社に30,000円+消費税3,000円を支払う



A社はB社から受け取った消費税3,000円を国に支払うのでしょうか?

いいえ、この3,000円を国に支払うわけではありません。


A社:B社から3,000円の消費税を受け取る

フリーランスへ1,000円の消費税を支払う


だから納税額は2,000円になる。これを仕入税額控除といいます。



この時、フリーランスが発行する請求書が適格請求書であれば元請けA社は仕入税額控除が使えます。


フリーランス:A社に納品 → 請求書10,000円+消費税1,000円

元請けA社は発注者B社から消費税を受け取っただけでなく支払ってもいるのでこの1,000円分を控除して消費税を計算できるというわけ。


ところが!

これがインボイスではない普通の請求書だとA社は仕入税額控除が使えなくなます。


ということは

A社が納税する消費税は3,000円になるのです。

2,000円だと思ったのに3,000円って…1,000円高くなってしまいましたね。





あなたがA社の立場だったらどう考えるでしょうか?


「ちょっとこのフリーランスに消費税分まけてもらおうか」

(=この場合フリーランスの収入は減りますね)


もしくは


インボイスが発行できるフリーランスに頼もうか

(=この場合インボイス登録してないフリーランスは契約してもらえなくなりますね)




企業とフリーランスでは「消費税の見え方」が違う


そこには多くの個人事業主が意識しない「税込経理方式」と「税抜経理方式」の違いがあります。


▼税込経理: 消費税を売上や経費の一部として一体で捉える

▼税抜経理: 企業の多くが採用。消費税を「会社のお金」ではなく「国に納めるためのお金」として完全に切り離して捉える



発注側の企業の多くは、税抜経理方式を採用しています。

つまり、消費税は「会社の利益」ではなく、「国へ納めるために保管しているお金」として管理しています。


この視点に立つと、企業がインボイス登録の有無を気にする理由も見えてきますね。




登録すると何が発行できるの?


インボイス登録自体は自分が法人でも個人でも強制ではないし、また売上がいくらでも強制ではありませんが適格請求書発行事業者になると、登録番号を記載した「適格請求書(インボイス)」を発行できるようになります


この請求書があることで、発注側は仕入税額控除を適用でき、安心して経理処理を進めることができます。つまり「登録番号」が重要なのではなく、相手が適切な税務処理を行えることに意味があります。


(参考)




「三方よし」の視点で取引を眺める


感情論を脇に置き、それぞれの視点からインボイスを捉え直してみましょう。


▼発注者や消費者の視点

自分が支払った消費税が、不透明さのなく、巡り巡って正しく社会に還元される状態を望んでいる

▼元請企業の視点

預かった消費税と支払った消費税を正しく仕入税額控除できないと、自社が不条理なコストを被ることになる

▼受注側(フリーランス)の視点

自分の登録状況をオープンにすることが、取引先に安心してもらう配慮になる


誰か一人が得をする関係ではなく、関わる全員が納得できる「取引の透明性」が、これからの時代には求められているのかもしれません。




「透明性」が自分の業界の健全性を守る


なぜフリーランスがインボイスを正しく理解し、対応することが業界の健全性につながるのか。 


Honmono協会の会員でもインボイス導入前、「個人事業主でしょ?消費税なんて外してよ」と言われたことがある方もいます。その際に「適格請求書発行事業者ですので御見積には消費税を記載させていただいております」と、透明性の高いコミュニケーションをとれるようになるということですね。


曖昧さを排除し、お互いのコスト構造をクリアにすることが、デザイン業や士業といったクリエイティブ・専門職の「市場価値」を不当に下げないための、業界全体の防衛策となりえます。





フリーランスはインボイス登録すべき?


「登録しない=仕事がなくなる」は本当?


インボイス制度が始まった当初、

「登録しなければ仕事がなくなる」

という話を耳にした方も多かったのではないでしょうか。


しかし、実際にはそこまで単純な話ではありません。


例えば、取引先が一般消費者中心の事業であれば、仕入税額控除の影響を受けにくいケースもあります。


一方で、法人との取引が中心であったり、企業を相手に継続的な業務を行っている場合は、インボイス登録の有無が契約に影響することもあります。


つまり「登録しなければ仕事がなくなる」のではなく、「自分の取引先が何を重視しているか」を理解することが大切なのです。


制度そのものよりも、自分がどのような相手と仕事をしているのかを把握することが、適切な判断につながります。




「登録する・しない」は正解ではなく「経営判断」


インボイス制度には、「登録することが正解」「登録しないことが間違い」という答えはありません。売上規模や取引先、今後の事業展開などによって、最適な選択は人それぞれ異なります。


例えば、

・法人との取引を増やしていきたい 

・今後、事業を拡大したい 

という方であれば、インボイス登録が信頼につながる場面もあるでしょう。


一方、

・一般消費者向けのサービスが中心 

・現在の取引先から登録を求められていない 

という場合には、現時点では登録しないという判断も十分考えられます。



重要なのは、「周りが登録しているから」ではなく、自分の事業にとって何が最適なのかという視点で考えることです。


登録するか、しないか。

その判断は事業者それぞれに委ねられています。


登録を悩んでいる方は国税庁のセルフチェックシートも参考にしてみてください。




信頼という「器」を整える


茶道では、お客様を迷わせないために、道具の位置や動作の順番まで丁寧に整えます。

相手が安心して一服のお茶を楽しめるように、見えない準備を重ねることも、おもてなしの一つです。

仕事も同じではないでしょうか。制度は時代とともに変わります。

しかし、


・相手に誠実であること。

・分かりやすく説明すること。

・互いに納得した上で仕事を進めること。

こうした姿勢は、制度が変わっても変わらない「仕事の基本」です。


インボイス制度も、その基本を形にした制度の一つだと私は考えています。

取引の透明性を高めることは、相手のためであり、自分のためでもあります。

そして、その積み重ねが、信頼されるフリーランス、さらには健全な業界を育てていくのではないでしょうか。






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