フリーランスこそ知っておきたい「源泉徴収」の基本―「確認=礼」が信頼につながる理由―
- 伴 真知佳

- 1 日前
- 読了時間: 8分

1. はじめに
会社員の頃、給与明細を見ると毎月のように所得税が差し引かれていました。
「税金だから仕方ない。」
そのくらいの感覚で見ていた方も多いのではないでしょうか。
ところがフリーランスになると立場が変わります。
今度は自分が請求書を作成する側になります。
そのときによく聞くのが、
「源泉徴収って誰が決めるの?」
「所得税と源泉所得税って何が違うの?」
「自分で確定申告するなら引かなくてもいいのでは?」
という疑問です。
私自身、社会保険労務士という仕事柄、
「似ているけれど意味が違う言葉」には敏感になります。
例えば「扶養」といっても税法上の扶養と社会保険上の扶養では意味が違いますし、「年収」と「所得」も別物です。
実は、「所得税」「源泉所得税」「源泉徴収」も同じように混同されやすい言葉です。
今回は、制度の説明だけではなく、フリーランスとして仕事をするうえで知っておきたい「源泉徴収」の考え方についてお話しします。
2. 「所得税」「源泉所得税」「源泉徴収」は何が違う?

まずは言葉を整理してみましょう。
所得税とは、最終的に個人が負担する税金です。
一年間の所得をもとに税額が決まり、確定申告などで精算されます。
源泉所得税とは、その所得税の前払い分です。
そして源泉徴収とは、報酬を支払う側が所得税を差し引き、本人に代わって国へ納付する仕組みをいいます。
つまり、
所得税=税金そのもの
源泉所得税=所得税の前払い
源泉徴収=差し引いて納付する仕組み
という違いになります。
言葉を整理するだけでも、制度がぐっと分かりやすくなります。
3. 会社員とフリーランスでは「見える景色」が違う

会社員の場合、給与計算や年末調整は会社が行ってくれます。
給与明細を見ても、「所得税が引かれている」という事実を確認する程度で、その仕組みを意識する機会は多くありません。
しかしフリーランスになると事情は変わります。
請求書を作成し、契約内容を確認し、場合によっては源泉徴収の対象になるかどうかまで考える必要があります。
さらに、源泉徴収はすべての仕事で必要になるわけではありません。
例えば、
原稿料
講演料
デザイン料
社会保険労務士など士業への報酬
など、法律で対象となる業務が定められています。
つまり、「フリーランスだから源泉徴収される」「法人との取引だから必ず源泉徴収される」という単純なものではありません。
仕事内容によって判断が変わるため、契約内容を確認することも大切になります。
源泉徴収が必要な仕事の範囲は法律で決まっている!
例 原稿料や講演料、デザイナー料など
弁護士、司法書士、社労士など士業
デザインの範囲
例 グラフィックデザイン、広告デザイン、webデザインなど
源泉徴収税額計算方法
区分 源泉所得税額の計算方法
支払金額100万円以下の場合 支払金額×10.21%
支払金額100万円超の場合 (支払金額―100万)×20.42%+102,100円
4. 「請求額と振込額が違う!」は意外とよくある

私が実務で相談を受ける中でも、
「請求額と振込額が違うのですが、先方の間違いでしょうか。」
という相談を受けることがあります。
例えば、報酬10,000円、消費税1,000円、合計11,000円を請求したにもかかわらず、振り込まれた金額が請求額より少ない。
初めて経験すると、
「振込ミスでは?」
「請求書の金額と違う!」
と不安になるのも当然です。
しかし確認してみると、源泉所得税が差し引かれていただけ、というケースも少なくありません。
会社員時代には会社がすべて処理してくれていたため、フリーランスになって初めて源泉徴収を意識する方も多いのです。
制度を知らないだけで、お互いに「振込ミスでは?」「請求書が違う?」という誤解につながってしまうことがあります。
例えば、報酬が10,000円だったとします。
本来であれば、お客様はあなたに10,000円を支払います。
しかし、法律により源泉徴収が必要な場合は、所得税分を差し引いて支払うことが義務付けられています。
そのため、お客様はあなたに9,979円を支払い、残りの1,021円はあなたの所得税として一時的に預かります。
そして、その1,021円をあなたに代わって税務署へ納付します。
会社員時代に給与から所得税が差し引かれていたのと同じように、フリーランスでも報酬によっては同じ仕組みが働いているのです。
実際の請求書で見てみると、イメージしやすいかもしれません。

この例を見ると、
「どうせ自分で確定申告するのだから、源泉徴収なんてしなくてもいいのでは?」
と思われる方もいるかもしれません。
5. 「自分で納めるから引かなくていい」は選べない

しかし、相手が法人などの源泉徴収義務者である場合には、法律により所得税を差し引いて納付する義務があります。
つまり、
「私は自分で確定申告をするので、源泉徴収はしなくても大丈夫です。」
という選択は、原則としてできません。
もし源泉徴収を行わなかった場合、税務調査などで指摘を受けるのは支払った側です。
ここで、多くの方が混乱しやすいのが消費税との違いです。
消費税は、自分がお客様から預かった税金を国へ納める仕組みです。
源泉徴収では、預かる人が逆になります。
本来自分が納める所得税の一部をお客様が一時的に預かり、自分に代わって納付する仕組みです。
「引かれているのに、お客様が預かる?」と思われるかもしれません。
実は、「誰が預かるのか」が消費税とは逆になるため、多くの方が混乱しやすいポイントなのです。
6. 「確認=礼」という考え方

ここで私が一番お伝えしたいのは、制度そのものではありません。
例えば、請求書を送る前に、
「今回は源泉徴収の対象になりますので、源泉所得税を差し引いた金額で請求書を作成いたします。」
と一言確認する。
あるいは、
仕事内容を確認し、
「今回は源泉徴収の対象ですね。」
と認識を合わせる。
たったこれだけで、お互いに安心して仕事を進めることができます。
逆に、お互いが制度を十分理解しないまま進めてしまうと、
振込後になって
「請求金額と違います。」
「源泉徴収を忘れていました。」
「請求書を修正していただけますか。」
といったやり取りが発生することもあります。
本来であれば、請求書を送る前のほんの一言で防げたかもしれない行き違いです。
Honmono協会の会員でも、企業さまとの初回取引の時の源泉徴収に関する認識合わせを怠った方が「税込110,000円のご請求時で99,130円の振込」だったことがあったようで、
内訳を確認すると
100,000円 … 税抜価格
10,000円 … 消費税
-10,210円 … 源泉徴収税額
計99,790円
入金額99,130円
-660円 … ???
となったケースがあったようです。
計算が合いませんね。
このケースでは企業さまは「振込手数料」をフリーランス側の負担として振込していました。
これがダメということではなく「細かいことはいいや」と-660円の正体がわからないまま雑な経理処理をしていると確定申告時に支払調書と数字が合わなくて四苦八苦したり、
不必要に相手方と摩擦が起きかねないようなやり取りをする必要が出てきてしまいます。
(2026年1月1日からは振込手数料の受注者負担は禁止とされています)
また、取引先の企業さまが「すべてわかっている」そんな風に決めつけることもよくないことで、フリーランスとの取引が初めてのケースでは源泉徴収のこと自体を認識していないケースもあります。
私は、こうした確認は単なる事務手続きではなく、
「確認=礼」
だと思っています。
知識を持っていること以上に、その知識を相手に安心してもらうために使うこと。
それが、長く信頼されるフリーランスにつながるのではないでしょうか。
7. 茶道にも通じる「用意」

茶道の世界では、「降らずとも雨の用意」という心構えが大切にされています。
お客様が迷わないよう、先回りして準備を整えておくことです。
お道具の配置、お菓子の出し方、お茶を点てる順番。
どれも、「お客様が気持ちよく過ごせるように」という思いから生まれています。
請求書や契約書も、相手を思って整えるという点では同じなのかもしれません。
源泉徴収の対象か。
請求金額はいくらになるか。
契約内容は明確になっているか。
こうしたことを事前に確認しておけば、お互いに安心して仕事を進めることができます。
契約書や請求書は、単なる書類ではありません。
相手への配慮を形にしたものです。
私は、フリーランスにとって制度を学ぶことは、自分を守るためだけではなく、相手への思いやりを形にすることでもあると感じています。
8. おわりに
源泉徴収は、一見すると税金の話です。
しかし、その本質は、
「相手に迷惑をかけないための仕組み」
でもあります。
フリーランスは自由な働き方だからこそ、技術や専門知識だけではなく、契約やお金の流れまで含めて、自分で整えていく必要があります。
だからこそ、制度を知ることは、自分のためだけではありません。
取引先を守り、信頼関係を築くための知識でもあるのです。
契約書という名の傘を、晴れているうちにそっと差し出せる人でありたいですね。

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