ホンモノガタリ Vol.3 石光
更新日:2021年11月5日
Vario’s合同会社代表 縁がつなぐシングルマザー支援の輪

幅広い事業を展開する会社を経営する石光さん。一見すると脈絡なく広がっているように見えるそれぞれの事業は、実は一本「シングルマザー支援」という芯でつながっている。なにより「今はやりたいことがたくさんあって混乱するけど、毎日がすごく楽しいし、次の日が来るのがすごく楽しみです」その一言に、今の彼女の姿が凝縮されているような気がした。
取材日:2020年3月17日 聞き手と文:大竹一平(MtipCreative㈱代表)
ブルーライトコーティングの代理店拡大中
大竹 石さんは静岡でVario’s合同会社を起ち上げて、会社の事業がすべてシングルマザーの支援につながっていると聞いたんだけど、会社の設立自体はまだ最近と言っていいぐらいなんだよね。 石 会社は今年、2020年4月11日で1周年です。 大竹 今はどんな事業をやってるの? 石 企業のコスト削減、スマホやパソコンモニターのブルーライト対策コーティング、ドローンを使ったビルの調査、あと中古車販売事業を最近始めたところです。 社員は私を含めて2人で、協力会社と提携して事業を進めたり、ブルーライトについては去年の10月から代理店を頑張ってつくって、今は11カ所あります。これから代理店に協力してくれる提携先として、接骨院と美容院に声をかけているところです。 大竹 接骨院とか美容院でスマホのブルーライトコーティングをするの? 石 健康を気にされる方が集まる場所だし、付加価値として提供してもらうことができるので、実は相性がいいんです。本来、ブルーライトの光はとても強くて、人間にとって本来は直視できない光なんです。でもスマホやパソコンの画面からは常に出ていて、私たちはそれを日常的に直視してしまっている状態です。その光は角膜や水晶体では吸収されずに目の奥にある網膜にまで届いてしまい、目の健康や睡眠障害を引き起こすとも言われています。私たちがやっているのは、スマホやパソコンの画面をコーティングすることでブルーライトを99%以上防ぐという事業で、今は代理店があるのは静岡県内と東京、近く横浜に1カ所できます。

「稼ぐ手段がない人」を支援する仕組み
大竹 それも当然、シングルマザー支援につながってるんだよね? 石 実は最初にブルーライトの事業を始めたきっかけは、私自身の子どもの健康のためでした。でも事業自体はすごくシングルマザーに向いているなと。誰でも30分から1時間あれば仕事を覚えられるし、ニーズがあって、労働単価が高い仕事。現状、シングルマザーには仕事と子育てを両立できない、稼ぐ手段がないという人も珍しくないんですけど、ブルーライトのコーティングキットは持ち運べるので自宅でも出来るし、お客様のところに訪問して施工することもできる。 都合のいい時間に仕事してもらうことができ、自宅でやれば月々の運営費が必要ないうえ、施工してコーティングに必要な材料がなくなれば会社が補充する形にして、代理店側の経費がかからないようにしています。 一般的なアルバイトの時給と比べれば数倍はいい単価で契約しているし、私の会社に大きな企業から依頼が入れば、シングルマザーに施工してもらう形にして、少しでも収入にしてもらっています。 大竹 他の事業も全部シングルマザーの支援につながってるの? 石 つながってます。コスト削減もドローンも。ドローンは建物の損害をドローンで上空から調査するという仕事なのですが、その依頼を代理店となったシングルマザーがとってくれば、それに対して対価を支払うという形にしています。 大竹 損害調査って? 石 たとえば、自宅の屋根や瓦が台風などの自然災害で損害が出たとして、被害が出た1年以内なら損害保険がおりて修理することができます。また、被害が出ていることに気付かなかったとしても、災害が発生してから3年以内なら、やっぱり保険の対象になります。加えてビルでいうと、たとえば古いビルで損壊が起きていたり、屋上にある配管が錆びて修理が必要になったり、またそもそも古くて使っていない配管の撤去も、保険の対象になります。その営業代理店を、シングルマザーにやってもらっています。 大竹 でも災害が起きないとニーズは起きないんじゃない? 石 今は問題ない建物でも、これから災害が起きて損壊する可能性はあります。災害が起きる前、今の建物の状態をドローンで写真を撮っておけば、災害前と災害後の比較をすることが出来て、より高い精度で保障を受けられるようになります。 大竹 今撮っておけば、なにかあった時の“ビフォーアフター”を比較できるのか。 石 一軒家もビルも、そういった修理や撤去に保険が使えることはまだ知らない経営者も多いので、保険で修理できることをお伝えするとやっぱり喜ばれます。建築事務所の建築士にも入ってもらって、経年劣化ではなくて本当に災害の被害なのか、そのうえで被害の状況を正しく判断して、修復にどれぐらいの費用がかかるかを算出し、保険が使えるかどうかを判断するようにしています。

やりたいことをやるために、必要なこと
大竹 いろんなジャンルの会社とのネットワークがあって、提携してるのがすごいとこだね。会社を設立してまだ1年だと、それまではなにをやってたの? 石 高校を卒業してから仕事をしていて、ずっと会社員をやっていました。順に言うとホテルのフロント、携帯販売会社の販売員、その後に3年間専業主婦をやったあと、保険会社の外交員、化粧関係、です。 大竹 ずっと静岡で? 石 はい、静岡県内です。 大竹 いろんなキャリアがあるなかで、自分の会社をつくろうとした一番の目的はなんだったの? 石 18歳から仕事をしてきて、優秀な大学を出たわけでも、大手の企業に勤めた経験があるわけでもないんですけど、それぞれのタイミングで自分に合った仕事が出来たし、どれも貴重な経験でした。ただ、結婚して離婚しようと決めた時に、自立してないと社会復帰が出来ないなと思ったんです。 大竹 自立か。じゃあ離婚しようと思ったから、また仕事に就いたんだ。 石 うーん、半分ぐらいは、ですね。そもそも他人に頼るのが好きじゃなくて、結婚している間でも自立したいという気持ちは強くありました。たとえば、今でも友人から「結婚した相手を間違えた」とたびたび相談されるので、「離婚すればいいじゃん」とそのたびに返すのですが(笑)、「離婚したら生活できないんだよ」と。たいがいの女性はそこで終わるんです。私としたら、自立していればその縁を切るという選択肢も生まれるだろうと。 大竹 うん、生活が出来れば、自分から“切る”ことができる。 石 そうそう。それまでも自分がやろうと思ったことは率先してやって生きてきたタイプなので。社会復帰しようと思った時も「この人と100%離婚しよう」と思っていたわけではないんですけど、いつなにが起きるか分からないから、旦那さんにおんぶに抱っこではなくて、自立できる環境をつくっておこうと。
人生初「面接で落とされまくる経験」から保険会社へ
大竹 で、就職活動を始めたんだ。 石 ただ、どの企業に行っても断られたんです。面接に行っても全部落とされる。すぐ落とされる。それが続く。実はそれまで面接で落とされたことが一度もなかったので、けっこうなショックで…。 大竹 それまで落とされたことないのが逆にすごいけど(笑) 石 ほんとに初めての経験だったので、落とされるたびに「どういうこと?」って思ってたんですけど(笑) 当時はまだ上の子が3歳、下の子が1歳で幼い頃だったので、企業としてはそれを嫌ったようなんです。 大竹 女性活用とか働き方云々とか言うけど、現実はまだそういうところが多いんだ。 石 その頃、家によく来てくれていた保険担当の方が、「うちで一緒に働こう」と。子どもがいても働きやすい職場だからって。それがきっかけで保険会社でしばらく働いて、結果的にはその後1年だけ化粧関係の仕事に就きました。美に携わること、ファッションでもネイルでもエステでもなんでも好きなんですけど、保険会社と比べると待遇の面で厳しいのが正直なところでした。 大竹 あぁ、保険会社は給料よさそうだもんね。 石 保険会社は実力世界で、固定給に歩合がプラスされるので、成績がよければそれなりの給料をもらうことはできます。頑張って月に100万円もらうような人もいれば、最低賃金を割るような人もいます。
保険、ホテル、携帯ショップ、成果を上げた原動力は?
大竹 そのなかで、石さんは稼いでるほうだった。 石 意地と負けず嫌いでやってましたから(笑) 保険会社がいい経験だったのは、営業の経験を積めたことでした。もともと人と接するのは好きだったんですけど、営業が出来たわけではなかったので。ホテルのフロントをやっていた時も、お客さんの顔を覚えておいてチェックインをスムーズに進められるようにしたり、好みの枕の硬さを覚えておいたり。それを繰り返しているうちに言葉を交わす機会が増えてまたお客様に喜んでもらえるとか、そういうのってやっぱり嬉しいし、些細だけど力になれている気がして頑張れますよね。 大竹 ホテルとしても欠かせない人になっていったわけだ。 石 ある時期から会社の事情でそのホテルの支配人がしばらく空席になっていた時期があって、その間は支配人代理もやりました。 そのホテルを経営している会社から学んだのは、社長の仕事への熱意の大切さでした。そこの社訓は「できない理由ではなく、どうしたら出来るかを考える」で、その言葉はいま私の会社のHPにも載せているぐらい大切にしている言葉です。その時の社長の仕事が社訓通りに徹底していて、あらゆる小さなこと、たとえば朝ごはんのお米の炊き方から社長が率先して動いて、社員全員の工夫やアイデアで改善につなげていました。 もちろんホテルなのでお客様からの理不尽なクレームもあるんですけど、それでも会社として真摯に対応する。その結果、稼働率が99%を維持するようなホテルだったので、たとえ小さなことだと思ってもおろそかにし