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otake Ippei

ホンモノガタリ Vol.2

更新日:2021年11月5日

映画監督 西端実歩さん 『泡沫少女』で海外の国際映画祭へ




映像作家である西端実歩さん。今一番の目標は、映画としては自身初の作品となる『泡沫少女』(うたかたしょうじょ)で、海外の国際映画祭で受賞することだ。常々、「自分の頭の中にある美しい映像を、作品にしたい」と言い、実際にその映像は独自の美しい世界観で溢れている。映像制作を始めるきっかけ、今の世界観とつながる過去。“西端ワールド”がいかに形作られてきたのか、その一端に迫ってみた。


取材日:2020年3月20日 (Honmono×COHSA SHIBUYA共同セミナーを中心に) 聞き手と文:大竹一平(MtipCreative㈱代表)



「動画制作セミナー」当日映像

撮影: JoTerauchi/編集: Nanami Matsumura



今年の目標「海外の国際映画祭に出品する」


大竹 今まさに『泡沫少女』を制作してる最中なわけだけど、映画監督としては初作品になるんだよね。映像と一言で言ってもたとえば映画、テレビ、YouTube、いろいろなジャンルがあるけど、映像作家としては今までにどんな映像をつくってきたの? 西端 もともと勤めていた滋賀県の映像制作会社が近未来チックな映像を得意とする会社で、企業のプロモーション映像やTVCMのような映像広告が多かったです。独立してからは、もともとやりたかった女性の感性を生かした映像を中心に制作しております。映像美を追求し、ブランドやジュエリーのイメージムービーや、MV(ミュージックビデオ)など、幅広く制作しています。  それと仕事はもちろん、人とのご縁をつないでいただいてるのが有名講演家の鴨頭嘉人さんです。私がつくる映像を気に入っていただけて、鴨頭さんの講演会に関わる映像をつくらせてもらうようになったのは、キャリアとしてとても大きかったと思います。 大竹 映画業界で言うと、女性がつくった作品を紹介する時にわざわざ「女性監督」っていう言葉がつくぐらいだから、映像の世界で女性が活躍するケースっていうのは、まだ少ないんだろうね。

西端 映像制作って今でも男性社会で、まだまだ男性が圧倒的に多い社会なんです。でもその中で女性の映像作家、映画監督として社会に向かって自分の考えをしっかり発信している人もいて、そういう人たちの活躍を見て「私もやらないといけない」と思って、今はいろいろな形で自分の作品や考え方を発信するようにしています。 大竹 そういう意味では、『泡沫少女』は女性的というか、カッコ良さよりも美しさを表現する作品になりそう。 西端 そうですね。『泡沫少女』では、私の頭の中にある美しい映像を描けたらと思っています。私がこれから力を入れて制作して行きたいのは、男性的ではなくて、女性だからこそ表現できる世界なんです。女性ならではの繊細な感性だったり、美しさだったり、そういう映像を追求して、人の心に響くような作品をつくりたいなと思っています。 大竹 まさに『泡沫少女』だ。


西端 今年の目標は『泡沫少女』での海外進出で、海外の国際映画祭に出品することです。私だけじゃなくて、他の分野のクリエイターと一緒に映像業界の可能性を広げるような作品、しかも海外で通用するような映画をつくるのが目標です。映画はもちろん一人でつくれるものではなくて、いま制作している『泡沫少女』も、衣装、空間デザイン、イラストレーター、カメラマン、ほんとにたくさんのクリエイターとその能力に助けられてると思うし、そういう作品づくりを出来ることが幸せだなと思えます。 大竹 いま『泡沫少女』の制作に関わってるクリエイターは全部で何人ぐらいいるんだろう? 西端 うーん、何人だろう? 25名ぐらい、ですかね。 大竹 しかも20代のクリエイターが多いのが特徴だよね。おれも少し手伝いながら、若いクリエイターが中心になって、どんどん新しい世界をつくっていく姿が素敵だなと思う。今回の映画にたどり着くまでを振り返ってもらって、そもそも映像をつくろうと思ったきっかけはなんだったの?



“映像作家デビュー”は高校3年生の学園祭


西端 高校3年生の時に、高校生活最後の思い出をつくろうと思って学園祭の実行委員をやったんですけど、その時に初めて写真係をやることになったんです。カメラに興味があったわけじゃなくて、映画制作に興味があったわけでもないんですけど…。

 そこで初めて一眼レフを持って写真を撮って、後夜祭の時に全校生徒の前で写真をまとめた映像の上映会をやった時、私のことをぜんぜん知らない人でもそれを観て泣いてくれた人がいたんです。もともと映像のことをなにも知らなかった女子高生が、こんなに人の心を動かせるんだと、そんな力を持つ媒体ってすごいなと思って、興味を持ちました。 大竹 カメラに興味があったわけでもないのに写真係を引き受けちゃったのも、考えてみればすごいね。


『泡沫少女』メイキング映像カメラマン寺内丈さんの機材



西端 不思議とそこに不安はなかったんです(笑) ほんとに、思い出づくりとしか思ってなくて。 大竹 その学園祭の上映会があって、もうその段階で映像の道に進もうと思ってた? 西端 うーん、そこでは特にそうは思ってなかったです。ただ、学園祭が終わって進路について真剣に考える時期を迎えて、そこで振り返った時に、自分がこれからやりたいこと、自分が出来ることってなんだろう?と考えた時、その映像の経験が浮かんできたという感じでした。 大竹 それで勉強しようと。 西端 そうですね。大学は映像学科に進みました。 大竹 それで本格的に映像をつくるようになったんだ。 西端 実は大学の授業自体は理論とかの座学が多かったんですけど、サークルのような集まりでデザインチームというのがあったんです。その中に映像グループがあって、そこに所属して町の企業と連携して実際に映像をつくっていた経験が、実践的だったという意味で今につながっている気がします。 大竹 座学も必要かもしれないけど、やっぱり実際につくってみるほうが経験としては大きい。 西端 やっぱり実践ですね。正直、大学の授業だけを受けていた時は「このままやっていて、ほんとに映像制作の道に進めるのかな」という不安があったので、そこは自分で映像をつくれたという経験が大きかったです。つくっている時が一番楽しいと思えたし、大学2年生とか3年生の時になると、「私にはこれしかない」と思っていました。 大竹 映像づくりが自分の強みになると思えた。



「変わってる」と言われ、悩んだ少女時代


西端 実は子どもの頃から、少し周りとは感覚が違うところがあったみたいで、「変わってる」と言われたこともあったんです。お店で出てきた水に入っている氷がきれいだなと思ってずっと眺めていたら不思議がられたり、空と雲に話しかけていたり――。『おすい(汚水)』のマンホールを神様だと思って毎日お参りしたり、手ぶらで学校へ行ったり…。

 昔はそういうことを通して自分の感覚が周囲とズレているんだとか、それは自分が悪いんだとか、そんな風に思って悩んだこともありました。「普通にしよう」と思ったことも。でも映像をつくるようになってからは、そういう経験が発想につながっている気がするし、むしろ今の強みになっているのかなと思えます。 大竹 周りから「ちょっと変」と言われるところが、実は個性だった。クリエイターに限らず、いろんな人に聞いてほしい話だと思う。そういうことに気づいて、意識するようになったのは大学での映像制作の経験が大きかった? 西端 学生の頃にけっこう自分と向き合う機会があって。「自分ってなんなんだろう?」みたいなことをひたすら考えていた時期がありました。卒業制作の作品が、自分と他人との境界みたいなことが分からなくなってしまった男の子が、自分がどこにいるんだろうと彷徨い続ける姿を描いたんです。その制作期間中は本当に作品と一緒に自分も彷徨っていて、「自分ってどこにいるんだろう」ということをずっと思い続けていました。


頭の中にある美しい映像を描く


大竹 『泡沫少女』もまさにそうだと思うけど、普段から「自分の頭の中にある映像を形にしたい」ってよく言ってるよね。 西端 そうですね。画が先に浮かぶんです。それは人によると思うんですけど、私の場合は、映像作品をつくろうと思うと、基本的に画が先に出てきちゃうんです。その画を表現したいなと思って、作品づくりに入ることが多いです。 大竹 『泡沫少女』で言うと、思い浮かんだのは…。 西端 この作品は、金魚でした。金魚がテーマというか、キービジュアルでした。金魚を擬人化させたらどうなるだろうというのが最初に画として浮かんで、そこから作品づくりが始まった感じです。 大竹 実際、今回の物語では金魚が象徴的な役割を果たすし、クライマックスでも登場してくるわけだけど、そこを実際の映像でどう表現するのかっていうのが、監督として腕の見せ所になりそう。 西端 金魚自体は水槽に入れた本物の金魚を使おうと思ってるんですけど、金魚をどうやって人物に映していくのかは、いろいろなイメージがあります。衣装はいま金魚をイメージした赤基調のドレスをゼロからつくっていますし、空間デザインも水槽の中の世界をイメージしたものをつくる予定です。金魚がモチーフなので、雨を降らせるシーンもつくりたいし、大きな水の入った水槽を用意して、その中で役者さんに演じてほしいなとか。 大竹 過酷だ(笑) ただ、それを全部やろうと思うと、予算的な話になってくる。今回少し手伝わせてもらって、映画づくりにお金がかかるというのが、よく分かった気がする。

西端監督と『泡沫少女』役者陣。写真左が野中貫太さん。

西端監督を挟んでW主演の椿役:烏森まどさん(左)、葵役:桜彩さん(右)



制作費のクラウドファンディング、セカンドゴール300万へもう一声!


西端 映像の質を上げようと思ったらきりがないし、そういう意味でお金をかけようと思えばいくらでもかけられます。2月に『泡沫少女』の制作費をクラウドファンディングで募集して、たくさんの方に応援してもらったおかげで140万円という最初の目標が達成できました。今はセカンドゴールの300万円を目指しています。  クラウドファンディングを始めたときは、そういう形で資金を集めるのも初めてだったし、他の短編映画制作に向けた募集を見ても50万円程度の目標金額が多かったので、140万円という金額を設定するのもけっこう思い切ったというか、勇気がいる選択だったんです。ただ、冷静になって自分が描きたい世界を考えると、やっぱり最初からもう少し高めに設定すべきだったなとも…。 大竹 たしかに、普通に考えれば140万円ってけっこうな金額にはなるから。そういうところも、初監督ならではの貴重な経験になるのかな。 西端 先ほども触れましたけど、『泡沫少女』の制作にこれだけたくさんのクリエイターや協力してくれる方々がいて、私としては本当に感謝しているし、だからこそ、絶対に海外の国際映画祭で賞を獲りたいという気持ちがどんどん強くなっています。だからこそ、質の高い映像をつくるために少しでも多くの予算をかけたいというのが、今の正直な思いですね。

候補となるスタジオをロケハン。

中央が『泡沫少女』カメラマンの堀井威久麿さん、右がメイキング映像カメラマンの寺内さん



台詞がない映画をつくる理由


大竹 もう少し映画の話をすると、今回の作品は台詞がないんだよね? 西端 ノンバーバル(非言語)といって、言葉を使わないで表現する手法です。 大竹 台詞なしで表現するのって、難しそうだけど…。 西端 もともと私自身が、イメージを言葉にするのがあまり得意でないというか、言葉にした瞬間に頭の中にある映像と違う世界になってしまうような気がしていたので、ノンバーバルにしたというのが1つ。もう1つはこの作品は海外の国際映画祭に出すので、もし台詞を使ってそれをさらに外国語に翻訳してしまったら、観てくれる方に私が描いたイメージがちゃんと伝わるかなという不安もあります。

 それだったら、言葉を使わずにダンスで主人公たちの気持ちを描写したほうが、観る方々にストレートに感じてもらえるのではないかなと。 大竹 よく「この作品は感覚的に見てほしい」と言ってるのは、その辺にあるわけだ。 西端 映画にもいろいろな種類がありますけど、『泡沫少女』はアート作品に近い映画になります。ストーリーを追って頭で理解するというより、役者が演じるダンス、音楽、そして空間デザインや衣装など、作品全体が生み出す映像の美しさとか、そういった世界観を直観的に楽しんでもらえる作品にしたいと思っています。



自分1人じゃつくれない、より質の高い作品へ

大竹 映画制作って、当たり前だけどゼロからつくりあげる作業になるわけだけど、映像を制作してきて難しさを感じるのってどんな時? 西端 やっぱり言葉にするのが苦手なので、頭の中にある映像を多数の人に伝えるのって難しいなと思います。あとは大学で映像制作を始めた頃は、全部を自分でやるっていうスタイルでつくってたんです。でもそれで手が回らなくなってパンクしてしまったことがあって。それから他のクリエイターに頼むことを覚えました。

 最初は他の人に頼むにしても、うまく言葉にして伝えられるかという心配があったんですけど、実際に頼んでみると、その人たちの能力のおかげで作品の質的に自分一人だけでつくる以上の効果が生まれることに気づきました。それが今回の『泡沫少女』にもつながっていると思います。  衣装をつくる人、空間デザインをつくる人、音楽をつくる人、いろんな人に入ってもらって、全部任せちゃおうみたいな。質の高い作品をつくろうと思ったら、カメラマンは撮影の仕事、ディレクターはディレクションの仕事、それぞれの専門分野に専念してもらったほうがいいものが出来るなと気づきました。 大竹 いま『泡沫少女』の制作チームは役者さんやスタッフさんはもちろん、現場も裏方もすごくいい雰囲気になってると思う。


スタッフもみんな、最高に盛り上がってます


西端 そうですね。熱というか、みんなで同じ方向に向いているように私も感じています。そういう意味では、集まってくれている人たちがめっちゃいい人たちばかりだし。 大竹 さっきお金の話になったけど、たしかに予算はたくさんあったほうがいいに決まってるけど、ロケ地にしてもいろんな人に協力してもらって場所を決めていったり、限られた予算の中でより良い表現をする工夫を考えたり、結果的にはそういうことを通してスタッフみんなが作品づくりに関わる楽しさというか、他人事ではなくて自分のミッションを楽しんでいるような気もする。 西端 本当にありがたいです。作品のイメージを膨らませすぎちゃって、それにつれて費用も最初の予算より膨らみすぎちゃって…。自分でピンチを招いた気もしてますけど(笑) 大竹 頭の中にある美しい映像を描く難しさだ(笑) 映像制作に必要な技術は大学の時に教わったの? 西端 大学の時は「やるしかなかった」という状況でした。さっき言った映像グループの人数が少なかったので。だから誰かに教わるというより、基本的に全部独学で機材とかソフトの使い方を覚えていった感じです。授業でもそういう内容はなかったので。 大竹 機材とかソフトとか、独学で学ぶには難しそうだけど。 西端 うーん。私の周りは独学で学んだ人が多いかもしれないです。楽しんでやれば、ぜんぜん編集も簡単に覚えられます(笑) 大竹 いや、デキる人はみんな“簡単”って言うんだよ(笑) 西端 でもほんとにやりたいと思えば、誰でも出来ると思うんですよね。それはどの分野でもそうかもしれませんけど。 大竹 普段、映像制作する時に、気をつけてる点はある? 西端 撮影をする時だと、私は人物の感情が出るシーンでは三脚を使わないようにしてます。三脚にカメラを固定して撮るのをフィックスって言うんですけど、実際の人の目、視線って、ずっと固定されてることってないんです。だから人の感情を出したい時にフィックスで撮ってしまうと、逆にカッチリしすぎて違和感が出てしまう。なのでわざと手ブレを入れるとか、フィックスにしないことで感情の揺れを表現するようにしてます。もちろん企業案件でカッチリ見せたい時は三脚を使って撮影するとか、状況によって合わせるようにはしてます。 大竹 そういうテクニックも、基本的には自分が撮影してきた経験から生まれてきたんだ。 西端 基本的には経験ですね。もちろん撮影する時にカメラの水平はきっちりとるとか、きれいな映像を撮る時に邪魔なものは入れない、たとえばYouTubeを見ていて意外とありがちなケースだと非常灯が入ってしまってるとか、人を撮る時に画面いっぱいに顔が映らないように頭の上の空間をしっかりとるとか、そういったことは昔言われて、今でも気をつけていることもありますけど。



大竹 自分の感性を表現しようと思ったら、撮影の場数、映像について真剣に考える経験がどれだけあるかがものを言うのかな。最後、今まさに『泡沫少女』の撮影をしてるわけだけど、これからつくっていきたい作品のイメージを教えてください。 西端 作品について話す前に、映画以外でやりたいことがあるんです。これは作品じゃないんですけど、「クリエイター×〇〇」っていう場所をつくりたい。たとえば「クリエイター×介護」とか、クリエイターを軸にして、お互いの専門分野とは違う分野を掛け合わせることで、なにかこれまでとぜんぜん違う新しいものが出来るんじゃないかと思っていて、そういう人が集まる場所やイベント、サロンをつくるとか、そういうことをやっていきたいなと、今は思ってます。 大竹 おもしろい。映画監督以前に、クリエイターとしての発想だね。なんかすごいものが生まれてきそう。 西端 作品で言うと、今回の『泡沫少女』もLGBT(セクシュアルマイノリティ)がテーマに入ってるんですけど、今後つくっていく作品でもいわゆるマイノリティをテーマに撮っていきたいと思っています。発達障害とか、障がい者とか。やっぱり過去の自分自身の経験から、世間から「普通じゃない」と思われたら「普通にするしかない」っていう社会に対して、問題を提起したい気持ちはあります。

 もちろん、徐々に社会自体が変わってきているとは思うんですけど、まだまだ生きづらいと感じている人はいると思うので、その人自身とその周りの人に向けた作品をつくっていきたいです。 大竹 たくさんの人がその作品を待ってると思う。

 

西端実歩監督のデビュー作品『泡沫少女』 クラウドファンディングで制作資金を募っています。 最終締切は3月30日、残り期間わずかです! 監督はもちろん、若いクリエイターの能力のために、 ご興味ある方はぜひご協力ください。


 



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